トランプ氏が21日、イランとの停戦を延長するとSNSで表明しました。
読売新聞は次のように報道しています。
「トランプ氏はこの日、バンス副大統領、ルビオ国務長官、ヘグセス国防長官らとホワイトハウスで対応を協議した。その後、SNSへの投稿で、イラン政府が内部対立で『深刻に分裂』していると主張。『イランから統一された提案が提出され、何らかの協議の結論が出るまで』停戦を延長するとした。」
一方、アメリカCNNはこの日、異なるニュアンスを持つ分析記事を公開しています。 読売の報道ではトランプ氏がバンス氏らとの協議を経て決断したような印象を受けますが、CNNの分析では少し違った雰囲気です。同記事によれば、イランはイスラマバードでの和平交渉に現れず、バンス副大統領はパキスタンへの出発前に渡航を取りやめ、空しく待ちぼうけを食らう結果になったといいます。つまり、今回の停戦延長は主体的な決断というより、交渉相手に出し抜かれた末の「後退」として描かれているのです。
原文ではこう記されています。
"Still, Trump's climbdown cast fresh doubts on his wartime leadership skills on a day when Iran refused to show up to talks in Islamabad aimed at ending the war — leaving Vice President JD Vance cooling his heels at home."
(「それでも、トランプの後退は彼の戦時指導力に新たな疑問を投げかけた。イランがイスラマバードでの和平交渉に現れなかった日、副大統領JDバンスは自宅で空しく待ちぼうけを食らう羽目になったのだ。」)
ところで、このCNN記事のタイトル、
"Why Trump's latest blink on Iran could be more than a TACO Tuesday"
をAIに訳させると、「トランプのイランへの最新の『折れ』は、単なる『TACOの火曜日』以上のものかもしれない」と、日本語としては伝わりにくいものになりました。
「TACO」とは "Trump Always Chickens Out"(トランプは常に尻込みする)の頭文字を取った反トランプ派のスラングです。これを踏まえた上で意訳を試みると、「トランプ、イランへの姿勢を再び軟化――『弱腰』で終わらない可能性とは」という形になりました。
同様に、反トランプのアメリカ人がSNSでよく使う "Orange menace"(オレンジ色の脅威) も、日本語への翻訳が難しい表現です。トランプ氏の独特なオレンジ色の肌を揶揄しつつ「危険な存在」というニュアンスを重ねた言葉ですが、無理に訳せば「橙色の危険人物」「日焼け男の脅威」となり、どうしても野暮ったくなってしまいます。外見の特徴を政治批判と絡める文化的な文脈が日本語にはあまりないため、ニュアンスがどうしても抜け落ちてしまうのです。
なぜこういったことが起きるのか、ちょうど今日、録画していたNHK「100分で名著」でウィトゲンシュタイン哲学の解説を聞きながら考えていました。
番組の中で紹介されていた言葉が印象的でした。
「言語は日常的な目的に応じて発達したものであり、したがって日常的なコンテクストにおいてのみ機能する。」
TACOもOrange menaceも、アメリカの政治文化・日常会話・SNSという特定のコンテクストの中で生まれ、機能している言葉です。あらゆる言語の情報を取り込んで成長するAIであっても、言語がその日常的なコンテクストと深く結びついているほど、別の言語文化へそのまま移し替えることは難しくなります。
こういった現象を、私は勝手に 「ウィトゲンシュタイン現象」 と命名しました。翻訳とは単なる言葉の置き換えではなく、コンテクストごと移し替える作業なのだと、改めて感じた一日でした。