ヌマガエルより除草の方がアマガエルにはこたえる

昨年来、アマガエルが雨が降りそうになっても田んぼで鳴かない原因を調べていました。
昨年の観察から、
(1)除草剤により発達障害が起きている
(2)除草剤により畦に隠れ場所が無いために、捕食者に見つかりやすい昼間は雨でも鳴かない
の2つの可能性を考えました。
その後、無農薬の田んぼの畦で尾が無くなったばかりのアマガエルをつかみ取りして放った何匹かが庭で成長し、雨が降りそうになると鳴いていました。英語ではこれをrain callsと呼び、カエルだけでなく鳥でも見られるそうです(ただしカエルと違い、鳥では降雨と無関係の場合もあるそうです)。
これに対してアマガエルが繁殖期の夜の田んぼで大合唱をするのはmating callsと呼ばれる現象で、アマガエルの場合は夜に限ります。
今年はジョギング圏内に無農薬の田んぼがあることが分かり、5月11日から走れる日は観察に行っていました。雨が降った昼間には車で行って鳴き声を確認しましたが、無農薬の田んぼでは鳴いておらず、近くの耕作放棄地の藪では鳴いていました。
そろそろ尻尾がついたアマガエルが畦に出るはずの6月の第1週になっても、無農薬田んぼの畦では、飛び跳ねる個体は全く見つかりません。6月15日に辛うじて1個体だけ見つかったので、これはおかしいと思い、昨年の同時期にアマガエルをつかみ取りした田んぼに行きました。昨年同様、うじゃうじゃいました。
同じ無農薬でも、今年観察した田んぼは、ほとんどの畦で草が刈られ、最も手入れされていない畦でも写真のように数種類の草しか生えていません。昨日、この写真の範囲を歩いて、跳ねたアマガエルは2匹でした。

1時間後に、自宅近くの慣行栽培の田んぼ(田植え後に除草剤をまく)で、畦に除草剤をまいていない区画に行きました。鬱蒼とした雑草の中を、うじゃうじゃアマガエルが跳ねていました。写真の窪んでいる所を踏みつけて向きを変えながら1箇所で10個体の手づかみ捕獲を試みました。5回に1度の成功率だったので、1平方メートルに満たない広さで50個体はいたと思います。

以上から、昔は雨の日に田んぼでアマガエルが鳴いていたのは、畦に身を隠す丈と密度で草が生えていたので、日中に親アマガエルがそこに潜んでいてrain callsを行っていた為と考えました。最近は除草剤やこまめな草刈りにより身を隠せない田んぼが増えたので、田んぼからrain callsが聞こえなくなったのでしょう。
そういった畦では、たとえ無農薬田であっても、尻尾が消えた直後のアマガエルは見られません。逆に除草剤をまいている田んぼであってもアマガエルは発生・成長できて、畦に雑草があればしばしそこに隠れて、陸に散っていきます。
近年、関東地方にヌマガエルが進出し、知人から「ヌマガエルがアマガエルを食べて減らしている」との説を聞きました。ヌマガエルのオタマジャクシがアマガエルのオタマジャクシを食べたとの報告があるからだそうですが、オタマジャクシ段階では多くの種で共食いや他種の卵・幼生捕食が見られます。実際、アマガエルやトノサマガエルがヌマガエルよりも早く産卵を開始する水田では、それらの幼生による捕食によってヌマガエル卵の死亡率が上昇している可能性が報告されています(Noha et al. 2018)。餌資源を巡っての競合はありますが、ヌマガエルによる直接影響よりも畦の草を減らす人為行為の方が、アマガエルを減らしヌマガエルを有利にすると思います。変態後のアマガエルは草むらにしか身を隠せませんが、ヌマガエルは泥の隙間に身を隠すからです。
ヌマガエルは生活史のほとんどを田んぼで過ごしますが、アマガエルは成長すると樹上生活に移るので、田んぼしか見ていないと「ヌマガエルが侵入したことでアマガエルが減った」と勘違いしてしまう可能性もあります。

ウィキペディアの「アマガエル」にも、「カエルは水辺に住むものと思われがちだが、ニホンアマガエルは樹上での生活に適応していて、水辺の植物の上や森林などに生息する。」と書かれています。生物の保全においては思い込みを避け、保全したい生物を現場で多面的にじっくり観察した上で、何が起こっているのか仮説を立てて検証することから始めるのが大切です。かつて「アサザを植えれば水辺の自然が回復する」なんて大ウソが日本を席捲したことがありました。主張した人達が、アサザは本来どういうところに繁茂する植物なのか観察せずに、霞ヶ浦の湖岸という、本来は生えていなかったところ(水路や田んぼには生えていた)に生えていたのが護岸工事で減少したなどと、まことしやかな嘘をつきまくったのが発端でした。