スルホキサフロル(商品名:エクシレル、トランスフォームなど)は、ミツバチへの影響を抑えつつネオニコチノイド耐性害虫にも効く「次世代型」殺虫剤として、日本や欧米で導入された成分です。EUでは屋内(温室)使用しか認められていませんが、米国や日本では空中散布も行われています。日本では特に水田で夏季に、カメムシやウンカ対策として空中散布され、秋田市では水道水からも検出されています。
米国アイオワ州で飲用水源中のネオニコチノイド系農薬とスルホキサフロルの濃度を調べた研究では、ネオニコチノイド系は年間を通じて高い確率で検出される一方、スルホキサフロルは検出限界未満でした。
論文名:Occurrence of Neonicotinoids and Sulfoxaflor in Major Aquifer Groups in Iowa
著者:Darrin A. Thompson, Claire E. Hruby, John D. Vargo, R. William Field
掲載誌:Chemosphere, Volume 281, 2021, 130856
下記論文の知見を踏まえると、スルホキサフロルが環境中で速やかに代謝物へと変化するため、この研究では検出されなかったと考えられます。逆に言えば、日本では水田の水が水道水源水として取り込まれるまでの期間が短いため、分解しきる前に検出されてしまうのでしょう。
論文名:The Sulfoximine Insecticide Sulfoxaflor and Its Photodegradate Demonstrate Acute Toxicity to the Nontarget Invertebrate Species Daphnia magna
著者:Jeremy R. Gauthier, Scott A. Mabury
掲載誌:Environmental Toxicology and Chemistry, 40(8), 2156–2164 (2021)
「親化合物が数日で消えるから環境負荷が低い」というのが従来の見方でした。しかし上記論文は、代謝物の方がむしろ毒性が高く、生態系に悪影響を及ぼしうると警鐘を鳴らしています。
さらに下記論文は、スルホキサフロルとその代謝物がミジンコに与える影響を実験により調べ、「親化合物とその代謝物を組み合わせた体系的な評価を行うことが極めて重要」と指摘しています。
論文名:Characterization of Sulfoxaflor and Its Metabolites on Survival, Growth, Reproduction, Biochemical Markers, and Transcription of Genes of Daphnia magna
著者:Tingting Yuan, Hui Jiao, Lina Ai, Yafang Chen, Deyu Hu, Ping Lu
掲載誌:Journal of Agricultural and Food Chemistry, 71(16), 6432–6442 (2023)
ミジンコをはじめとする動物プランクトンは、稚魚や小型魚類にとって重要な餌資源です。その個体数や繁殖能力が低下すれば、食物連鎖を通じて魚類にも影響が及ぶことは十分に考えられます。
こうした「代謝物の方がミジンコに対する急性・慢性毒性が強い」という警鐘は、主に近年の海外(欧米や中国など)のアカデミアから発信された最新知見です。一方、日本の環境省による登録審査や国内の主要な学会発表では、代謝物の水生生物毒性を主眼に置いた独自の再評価はまだ本格化していません。
日本釣振興会は淡水魚減少問題に取り組んでいますが、ここ数年は「魚が減ったというより消えた」との印象を持つ人が多いそうです。私自身も、ネオニコチノイドからスルホキサフロルへの置き換えが進むにつれて、庭の害虫がほとんどいなくなったと感じています。
日本では誰も調べていないうちに、生態系が取り返しのつかない状態にまで悪化しているのかもしれません。