農薬は、環境中にまくものです。
散布した場所だけにとどまるとは限りません。風が吹けば飛散し、雨が降れば水田や畑から流出します。土壌に残留したり、生物の体内に取り込まれたり、環境中で別の化学物質に変化したりすることもあります。
それにもかかわらず、農薬の安全性は、使用者がラベルを守ることをかなり前提にしているように見えます。
もちろん、使用基準を守ることは大切です。しかし、人間は必ず間違えます。散布量を間違えることもあれば、風向きを読み違えることもあります。散布機械が故障することもありますし、登録時には想定されていなかった大雨や洪水が起こることもあります。
このような場合でも、被害が拡大しない仕組みが必要ではないでしょうか。
製品や機械の設計では、「フールプルーフ」と「フェイルセーフ」という考え方があります。
フールプルーフとは、そもそも誤操作をしにくくする、あるいは誤操作ができないようにする設計です。フェイルセーフとは、誤操作や故障が起こっても、危険な状態ではなく安全な状態に移行する設計です。
農薬に当てはめれば、例えば次のような仕組みが考えられます。
過量を投入できない容器にする。
粉剤よりも飛散しにくい粒剤や製剤を優先する。
散布機械が強風や異常な散布圧を検知したら自動停止する。
河川や池、住宅地、養蜂場の近くでは散布できないようにする。
散布量、散布時刻、気象条件を自動的に記録する。
水域や湿地に流出しにくい成分・剤型を選ぶ。
農薬取締法にも、水産動植物や水質への影響を評価し、環境中予測濃度と毒性値を比較する仕組みがあります。また、近年は魚類などだけでなく、水域・陸域の生活環境動植物、鳥類、野生ハナバチ類などへ評価対象が広げられています。
しかし、登録された農薬が「環境に無害」という意味ではありません。登録された使用方法の範囲で、許容できるリスクと判断されたということです。
その評価も、個体が死ぬかどうかだけで終わってはいけないと思います。摂餌行動、繁殖、発生、免疫、捕食者との関係などに影響が出れば、個体数が減るまでには時間差があるかもしれません。
アマガエルのような生物についても、農薬が直接毒性を示すかどうかだけでは不十分です。畦の雑草がなくなれば、隠れ場所や餌場が失われます。農薬そのものの影響が小さくても、生息環境の変化を通じて生態系に影響する可能性があります。
したがって、農薬の安全対策は「使用者が正しく使うように指導する」だけでは足りません。
まず、農薬を使わずに済む方法を増やす。必要な場合も、使用量と散布範囲を最小限にする。そのうえで、誤使用や故障が起きても被害を広げない製品と機械にする。これが本来の順序ではないでしょうか。
農林水産省が推進している総合的病害虫・雑草管理、いわゆるIPMも、化学農薬だけに頼らず、さまざまな防除手段を組み合わせて環境負荷を減らす考え方です。
農薬は、標的の生物を殺したり抑制したりするためのものです。完全に無害な農薬を求めるのは難しいでしょう。
だからこそ、「農薬を使う人が間違えないこと」を安全性の前提にしてはいけません。
間違えても被害が起きにくい。故障しても安全側に止まる。想定を超える雨や風があっても、環境中への流出を最小限にする。
農薬のように環境中へ放出するものこそ、フールプルーフ、少なくともフェイルセーフの思想で設計されるべきだと思います。