ヤッコカンザシで防災

録画しておいた8月9日放送のサイエンスZERO「医療・防災・脳の解明につながる!?驚異のゴカイスーパーパワー」を見ました。

ゴカイは本来、多毛類に属する一つの科の動物を指す言葉ですが、この番組では「ゴカイ」という単語を多毛類全体を指すものとして使っていました。

ゲストは若手ながら多毛類の新種を次々と発表している方で、頼もしく感じました。

私は学部生の頃、当時の多毛類の権威だった今島実先生に師事し、同定方法を教えていただきました。卒論と修論のテーマは汽水域の多毛類でした。

そうした経緯があったので、東大地理学教室の先輩から「このウネウネして気持ち悪いの何?」と見せられたものが、ヤッコカンザシの棲息管であるとすぐに分かりました。

ヤッコカンザシは汀線付近に棲息するので、この管が地上で見つかった場合、そこはかつて汀線だった場所が地震で隆起したことを意味します。当時は地形から旧汀線を推定する方法が主流でしたが、先輩と私はヤッコカンザシが汀線の指標になることに気づき、論文として発表しました。

房総半島南東岸における旧汀線の指標としてのヤッコカンザシ

サイエンスゼロでは、このヤッコカンザシを使って、前職の地質調査所時代の同僚だった宍倉さんが、南海トラフ地震の隆起量の変遷を調べる研究を紹介していました。修士学生の頃の研究がこうして防災研究にもつながっていると知り、感慨深く思いました。

博士論文では、環境中での懸濁物食性二枚貝による水質浄化作用を定量化しました。地質調査所に就職してすぐに取り組んだ研究では、安定同位体比を使ってサンゴ礁で窒素固定系が働いていることを示しました。その後も、潜水ガモが汚損動物とされるホトトギスガイを食べ尽くす様子や、ネオニコチノイドの使用で宍道湖のワカサギやウナギが激減したことなど、いくつか論文を発表してきました。若い頃のものも、歳を重ねてからのものも、それぞれに思い入れがあり、比べるのは難しいです。環境研究では、経験によるスキル以外の何かが成果につながることもあるのかもしれません。