アサザ保全がきっかけで外来種に覆われてしまった霞ヶ浦

昨日(8月20日)、霞ヶ浦に行ってきました。
写真は、霞ヶ浦の湖岸に造られた消波堤の陸側です。一面にナガエツルノゲイトウが広がっています。

ナガエツルノゲイトウは特定外来生物に指定されている外来植物です。
私は以前から、霞ヶ浦で「自然再生」と称して消波施設を造ることには疑問を持っていました。
その理由は単純です。
霞ヶ浦は、ため池や小さな沼ではありません。風が吹けば大きな波が立つ大湖沼です。
もともとの霞ヶ浦湖岸では、その波による攪乱があるため、琵琶湖の前浜のような砂浜が広がっていました。ヨシも湖岸一面に生えていたわけではなく、妙岐ノ鼻のような波の影響が比較的小さい湾入部などにヨシ原が発達していました。
湖岸を垂直護岸にすると、砂浜は失われたように見えました。しかしその前面の湖底まで泥になるわけではありません。波が直接当たる場所では、湖底は砂質のまま維持されます。
私が1990年代から霞ヶ浦を見てきた限りでは、波当たりが強く、護岸を守る必要がある場所では、垂直護岸の前面にテトラポッドを置くなどの対策が行われていました。
ところが、その後、「垂直護岸によって湖岸植生が失われた」という説明のもとに、湖内に消波堤を造り、その陸側に静穏な水域をつくってアサザなどの浮葉植物を植える事業が行われるようになりました。
ここに、私は大きな問題があると思っています。アサザも、ナガエツルノゲイトウも、水面を覆う浮葉植物です。波あたりが大きい湖岸に本来は生える植物ではありません。
消波堤によって浮葉植物が繁茂し水面が植物で覆われれば、風による水面の攪乱や大気とのガス交換が妨げられ、水面下の水は酸素が供給されにくくなります。さらに植物が枯れれば、その有機物は湖底に堆積します。
ため池や沼のように、もともと波の小さい水域なら、こうした水草群落が形成されることは珍しくありません。しかし霞ヶ浦は、本来、波が強い湖です。
砂浜を維持してきた波を、わざわざ消波堤で弱め、その結果生まれる浮葉植物の繁茂を「自然再生」と呼んでしまいました。そのため消波堤が至るところに造られ、今日見たところではその大部分にナガエツルノゲイトウが入り込んでいました。
いずれ全ての消波堤で、冒頭の写真のような状態になるのでしょう。
印旛沼や手賀沼ではナガエツルノゲイトウの駆除活動をしていますが、霞ヶ浦では、もはや駆除は不可能な状態にまで広がっています。だから冒頭の写真のような状況になっても放置されているのでしょう。
日本生態学会 編矢原徹一・松田裕之・竹門康弘・西廣淳 監修「自然再生ハンドブック」(地人書館)では「3.3 霞ヶ浦における湖岸植生の保全・再生の試み」として消波堤を造ってアサザを植栽する事業が紹介されています。

私は地理学者ですが、地理学の視点からは1990年代の時点でこうした事態を懸念していました。しかし当時はほとんど取り上げられず、このブログでも「アサザ基金の欺瞞」というセクションを設けて批判してきました。一時は全国に広がった「アサザを植えて自然を再生する」は、今ではどこもやっていませんが、霞ヶ浦にはこうして「負の遺産」が残りました。しかし「自然再生ハンドブック」で消波堤の造成を推奨した生態学者から、ナガエツルノゲイトウを保全する施設と化した消波堤を「撤去すべき」という声は、今のところ聞かれません。大変残念に思います。