京都の寺の池にアマガエルはいない?

京都・東山地域の寺社庭園でカエル類を調査した論文が出ていました。

80水域・31施設で目視・鳴き声・環境DNAを組み合わせて調べた労作で、優占種はツチガエル、モリアオガエル、タゴガエルの3種でした。一方でアマガエルやトノサマガエルといった「水田性種」は少なく、著者らはこれを、水田に典型的な環境が寺社の池には乏しいためと説明していました。

ここで気になったのが、アマガエルの扱いです。この論文では検出されたアマガエルの遺伝子配列を、すべてD. leopardus(ヒガシニホンアマガエル)として解釈していました。根拠は最近の分類改訂論文と記していました。

この改訂論文を読むと、京都府では両種の分布境界がまさに府内を横切っており、東山地域を含む南東半分はD. leopardus、中央から北西半分はD. japonicus(ニホンアマガエル)か両種の交雑集団とされています。つまり調査地では両種が混在していておかしくない場所です。それにもかかわらず寺院論文では、環境DNAで検出された配列を両種の区別なく、地理的位置だけを根拠にD. leopardusと割り振っていました。この手順では、実際にはニホンアマガエルが混じっていた可能性を最初から検討できていません。

問題はそれだけではありません。アマガエル類の少なさについて、寺院論文は「水田性種だから庭園には少ない」と説明していますが、これはアマガエルの生態と整合しません。アマガエルが水域に依存するのは産卵期だけで、それ以外の時期は樹上や人家周辺で生活します。しかも論文中の写真(Fig. 2)を見る限り、南禅院や成就院の池は浅くて植生に囲まれた止水であり、産卵環境として不適とは言い切れません。

さらに見過ごせないのが鳴き声調査です。アマガエルには繁殖期の鳴き声(mate call)のほかに、降雨前後に鳴く「雨鳴き」(rain call)があることはよく知られています。鳴き声調査は4~7月に行ったとありましたが、この頃だと自宅周辺では、池の無い民家からもアマガエルの雨鳴きが聞こえます。

環境DNAとの対応比較を行った43水域のペア分析では、アマガエルは視覚・鳴き声調査で1水域のみ、環境DNAでは1件も検出されていないと報告されていました。これほど身近で個体数も多いはずのアマガエルの環境DNAが全く検出されないのは不自然で、実はニホンアマガエルの環境DNAはあったのに、両種を区別しない解析のせいで見過ごされたのではないかと思いました。

池ではなく池の近くの樹木にアマガエルがいたとしても、晴天時に池だけ見ていたら、生息を見落とした可能性があります。

京都の寺の庭の池は、実はアマガエルにとって貴重な生息場所で、一部の池は産卵場になっている可能性は十分にあると思います。この論文の記載が決定打扱いされて、「京都の寺社の庭にはアマガエルはいない」なんて見解が席捲しませんように。